藤田杯は、毎年2月の第2日曜日に開催されるスノーボードバンクドスラロームの大会である。参加者数は128名、リピート率は72%を誇り、参加者の90%が岩手県在住という地元に根付いたイベントとなっている。今回、プロスノーボーダー「藤田一茂」を中心として、この大会を盛り上げるため、イベント企画・コース造成など様々に裏側で動く男たちにクローズアップしたドキュメンタリー映像が公開。熱い想いを記事からも御覧ください。
※動画は記事の最後にあります!
はじめに|スノーボード界の異才、藤田一茂
スノーボード界には数多くの才能が存在する。しかし、その中でも特異な輝きを放ち、競技の枠を超えた存在として注目される者はそう多くない。藤田一茂は、まさにその一人である。
プロライダーとしての技術はもちろん、映像作家、カメラマン、イベントプロデューサーという多岐にわたる活動を通じ、彼はスノースポーツ文化の未来を形作る役割を担っている。彼の活動は、単なる競技としてのスノーボードを超え、ライフスタイルとしてのスノーボード、地域と結びついたスポーツ文化としてのスノーボードを根付かせることを目的としている。
スノーボードは、雪という儚くも力強い自然の中で、自らの技術と感性を融合させる遊びであり、競技であり、表現の場である。藤田氏はその全てを体現しながら、一つの大きなムーブメントを作り出している。彼の哲学、そして彼が手がける「藤田杯」の背景には、スノーボードに対する深い愛情と未来への強い意志が込められている。
プロライダーとしての軌跡|多彩なフィールドを駆ける男
photo:Niki Ayako
「スノーボードは、環境と対話するスポーツだ」
藤田一茂は、そう語る。
彼はワンメイク、スロープスタイル、ストリートといったシーンを経て、現在はバックカントリーやゲレンデクルージングを主戦場としている。こうした変遷は、彼の探求心と、スノーボードが持つ可能性への挑戦を物語っている。
「バックカントリーに行くと、雪山がすべてのルールを決めてくれる。滑る者はそのルールに従いながら、自分なりのラインを描く。それが楽しいんだよね」
世界中のスキー場やバックカントリーを滑ってきた彼が、現在拠点としているのは日本屈指の雪質を誇る「白馬五竜スキー場」。ここでは、「GORYU WAVES」という地形を活かしたパークのプロデュースも手がけ、彼自身の経験と哲学を形にしている。
「GORYU WAVESでは、地形を最大限に活かして遊ぶことができる。まっさらな雪面をただ滑るのではなく、そこにある起伏やバンクを使いながら自由に遊ぶ。それが僕の理想のスノーボードの形なんだ」
彼のライディングには、そうした“自然との対話”が宿っている。そして、その感覚を次世代に伝え、共有するための場として「藤田杯」が生まれた。
「藤田杯」をはじめた理由|守るべきもののために
「僕が育ったスキー場は、プロとして活動している間に閉鎖されてしまった。そのとき、プロでありながら何もできなかった自分が悔しかった」
藤田氏はそう振り返る。
スキー場の閉鎖は、決して珍しいことではない。日本国内では、少子化やレジャーの多様化、気候変動による雪不足などの影響を受け、多くのスキー場が経営難に陥っている。地元に根付いたスキー場がなくなることで、雪山に親しむ機会を失う子どもたちが増え、スノースポーツ文化そのものが衰退してしまう。
「スキー場を守るために、僕にできることは何か?」
藤田氏は自問し、その答えの一つとして「藤田杯」を立ち上げた。この大会の目的は、単なる競技イベントではなく、地域とのつながりを強化し、スノースポーツの楽しさを次世代へ伝えることにある。
イタちゃんと共に作った藤田杯
藤田杯が生まれた背景には、藤田氏とカメラマン・イタちゃんの長年の絆がある。二人は白馬村で15年以上活動を共にし、スノーボードを愛する仲間として成長してきた。
「イタちゃんがいなければ、藤田杯はここまでの大会にはならなかった」と藤田氏は語る。
イタちゃんはこう語る。
「スノーボードの原点は何かを考えた時、その全ては笑いではないかと思った。スキー場への行き帰りも、失敗しても、成功しても、常に仲間と笑っている、これがスノーボードなのではないかと思った。」
藤田氏もこの言葉に深く共感し、「まさにそれが藤田杯の根底にあるものだ」とうなずいた。競技としてのスノーボードは真剣勝負の場である一方で、仲間と楽しみ、笑い合うことこそが、このスポーツの本質なのではないかと改めて感じたという。
藤田杯の大会当日は、競技の緊張感とともに、どこか温かく笑いに満ちた雰囲気が漂う。それはイタちゃんが作り出したものに他ならない。彼は大会当日だけでなく、コース造成期間や普段のInstagramから笑いを生む企画を考え、参加者が純粋に楽しめる環境を整えている。
J様の存在
藤田杯の実行委員の一人であるJ様は、プロライダーでありながら、圧倒的なMCスキルを持つ人物だ。
「J様がマイクを握れば、会場は一瞬で笑いに包まれる。彼の滑りはもちろん一流だけど、彼の真の才能は '場を作る力' だ。あの雰囲気は、彼にしか作れない」と藤田氏は称賛する。
J様のMCは、ただ場を盛り上げるだけでなく、競技の緊張感を和らげ、参加者が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作り出している。「大会にとって、競技性だけじゃなく '空気' も重要なんだよね」と藤田氏は強調する。
藤倉海人の情熱
藤倉海人は、藤田氏がかつて所属していたハイウッドのDVDを見て育った世代のプロライダーだ。
「そんな彼が今、仲間として共に大会を作っていることが本当に嬉しい。彼はスノーボードへの情熱が人一倍強い。だからこそ、藤田杯に欠かせない存在なんだ」と藤田氏は語る。
海人は、藤田杯の運営を手伝うだけでなく、自身も選手として全力で大会に挑んでいる。彼の姿勢は、若いスノーボーダーたちに夢を与えると同時に、大会の未来を形作る重要な要素となっている。
地域とのつながり|支え合うスノーボード文化
藤田杯は、スノーボードを愛する仲間たちだけでなく、地元の人々の協力によって成り立っている。久慈市山形村は、ウィンタースポーツと深い関わりを持つ地域だが、近年は観光客の減少やスキー場の運営継続が課題となっている。
「スキー場が存続するためには、地域の理解と協力が不可欠。僕らスノーボーダーが自由に滑れる環境は、地元の人たちの支えがあってこそ成り立っているんだ」と藤田氏は語る。
また、藤田氏は地元のスノーボーダーたちとの交流も大切にしている。大会前には地元ライダーとのセッションが行われることもあり、藤田氏自身も「この地で長く滑り続けてきた彼らの経験やスタイルには、学ぶべきことが多い」と語る。スノーボードに対する情熱や価値観を共有し合うことで、互いにリスペクトの気持ちを持ちながらこの文化を育んでいる。
藤田杯では、地元の飲食店や宿泊施設と連携し、参加者や観客が大会を楽しみながら地域にも貢献できる仕組みを整えている。例えば、大会終了後には地域の食材を使った振る舞いが行われ、参加者と地元の人々が交流する機会が生まれている。スノーボードを通じて地域とつながることで、競技だけでなく、文化としてのスノーボードを次世代に残していくことも藤田杯の目指すところである。
久慈市産業建設課課長・谷地彰氏のコメント
「藤田杯は今や久慈市の冬コンテンツのメイン的存在。我々は大会の実施に感謝しつつ、私の課のメンバー総出でボランティアとして参加している。これからもこの大会を応援していきたい。」
スノーボードを通じて地域とつながることで、競技だけでなく、文化としてのスノーボードを次世代に残していくことも藤田杯の目指すところである。
仲間たちと共に創る未来
藤田杯は、単なる競技の場ではなく、スノーボード文化を未来へ繋ぐ場所である。GORYU WAVES、映像制作、イベント運営と、藤田氏の活動は多岐にわたるが、根底にあるのは “スノーボードを未来に残したい” という強い想いだ。
「大会が終わっても、この場で生まれた絆や経験は、ずっと続いていく。そういう場所を作ることが、僕の役目なんだと思っている」
藤田杯の物語は、まだ続く。未来は、ここから創られていく。