昔のクセで、いまだに足裏の拇指球を意識して荷重していませんか? なかなか気持ちのいいカービングターンができないと悩んでいる人は、足裏の荷重点をチェックしよう。独創的なアイデアから生まれる多彩なレッスンで人気のカリスマ・インストラクターの高橋美三男が憧れのカービングターンをわかりやすく伝授する!
写真&テキスト:渡辺智宏
取材協力:丸沼高原スキー場
モデル&解説/高橋美三男(たかはし・みさお)
1951年生まれ。秋田県出身。日本職業スキー協会(SIA)デモンストレーターとして活躍し、引退後もデモコーチやイグザミナーを歴任。SIA公認・丸沼高原プロスキースクール校長を務めながら、豊かな経験とユニークな発想力、細かい分析力および研究力を活かした楽しさいっぱいのレッスンで人気を集めている。宿泊施設「スポーツガーデン330」を経営(http://www.330club.net)。
【スポンサー】 HEADジャパン、ウベックススポーツジャパン、FOOT PRO
カービングターンって何?
カービングターンは昔からあるターン技術。回転弧の深さに関係なく、できるだけターンスピードを落とさずに滑るテクニックです。その昔、カービングスキー登場以前のスキーは幅が狭く、細長い(190~200cmが主流)スキーでした。エッジを力強く立てて滑ることが必要で、ヒザを回転内側に絞り込むような操作が主流でした。
その影響から今でもカービングターンはとにかく「エッジを立てる」イメージが強く、最初から最後までエッジを立ててズレのないターンを完成イメージに思っている人が多いようです。しかし、現在はスキーの長さが短くなり、形状も「しゃもじ」のようなカタチの回転能力に優れたカービングスキーが主流です。
スキーで雪の表面を削るように横に動かし(ズラし)ていくことでスキーがたわみ、同時にエッジも立っていくことでカービングさせる、というテクニックに変ってきました。
■カービング・ロングターン
■カービング・ショートターン
荷重点、今は「カカト」!
カービングスキーはトップやテールが反った「ロッカー」形状のモデルなど次々と進化したモデルが登場しています。コントロール的な観点からトップだけをロッカー形状にしたスキーも多くなりました。
カービングスキー以前の長かったスキーでは、トップをコントロールするために足裏の拇指球付近での操作という考え方が中心でした。ところが、最近のスキーはトップ部が反り上がったことにより、スキーのトップ側を意識した運動をしても力が伝わりにくい状態と言えます。現在のスキーの特徴からも、センターよりやや後ろ部分、つまり「カカト」付近を荷重点と考えたほうが「理にかなっている」のです。
写真は実際の操作方法ではなく、あくまでもカカト荷重のイメージです。雪面を外足で踏みつけるようにして、なおかつターンの外側にスキーを押し出していくイメージで脚部を動かしてください。
■拇指球で操作は過去の話
拇指球を意識した荷重操作では、スキーのトップ近く(ストックの先端くらいの位置)に荷重点があるイメージになる。荷重点がトップよりになるとスキーをきれいにたわませにくく、かつスキーの動きにも影響してしまう。さらにスキーが動かないのでヒザを余計に捻る動きも出やすく、オーバーエッジングになりやすい。
続・カカト荷重の理由
日常生活で強く荷重している部分、カカト。前傾姿勢ありきで、スネの角度を動かして荷重するという、ちょっと前のスキー技術が染みついている人には「抵抗感」があるかもしれません。しかし、足裏の前部、親指や拇指球に身体の重みが偏るような姿勢や動きは、スキーのテール側に力が伝わらず、スキーの動きが詰まりやすい状態になります。カカト荷重を意識することができると、足裏全体でスキーに荷重を加えることができ、スキー全体を使って滑れます。
また、カカト荷重は拇指球付近に荷重するよりも少ない力で強い荷重を加えることができるので、ヒザの動きを必要以上に使わなくて済み、ヒザを含めた関節や脚部の筋肉へ掛かる負担を軽減できるというメリットもあります。
■カカト荷重のデメリット?
カカト荷重は、すべてのスキー操作に対応していません。また、カカト荷重で滑るためには、上体のブロッキングが必須条件。試しに、腕の力を完全に抜いた姿勢でカカト荷重をしてみると全体のバランスが後方に大きく偏るのがわかると思います。
つまり、滑走するためのポジションバランスを崩す確率がかなり高くなるのです。カービングターンを覚えていくにあたってカカトを使う運動には、腕など上体の使い方でバランスを微調整ができるようになることも必要です。カカトは力強く素晴らしい荷重点ですが、上半身が伴わないと、逆に危険なバランスになります。
カービングターンにおすすめのスキーは、これっ!
最近はカービング&ロッカー・スキーのモデルが多くなりました。カービングターンをマスターしよう、もっとカービングターンの質を高めていきたいと思っている人で、これから新たにスキーの購入を考えているならば、スキーのトップが少しだけ上に反っているロッカーモデルがおすすめです。トップが浮いている形状で雪面に触れている部分が短く、結果としてスイングバランスが軽くなり、操作性がとても簡単。普通に滑るだけでも楽しいので、よりスキーの魅力をわかってもらえると思います。
■SUPERSHAPE E-ORIGINAL(HEAD)
LENGTH:156/163/170
SIDECUT:129/66/107 @ Length 170
RADIUS:12,1 @ Length 170
スーパーシェイプの元となったショートターンベースのVカットスキーのジオメトリーをベースに現代風にアレンジした新しいSupershapeの仲間Originalは切れの良いショートターンをきびきびと滑りやすくチューニングしてあります。EMCシステムを搭載し、有害な振動はシャットアウト。気持ちの良いバイブレーションが滑り手の心を揺さぶります。
■SUPERSHAPE E-SPEED(HEAD)
LENGTH:156/163/170/177
SIDECUT:122/68/104 @ Length 170
RADIUS:14,0 @ Length 170
オンピステでの中周りから大回りのパラレルターンを気持ちよく滑り降りるならスーパーシェイプスピードがお勧めです。お好きなターンの大きさによってサイズが選択でき、長めのサイズでは大きく高速のパラレルターンを、短いサイズではコブ斜面をと、マルチな顔を持つこのスキーはまさにオールラウンドハイパフォーマンススキー。
まずは基本ポジションから!
荷重するポイントが「カカト」ということがわかったら、カカト荷重をするために必要な基本的なポジションと動きからチェック。そしてカカト荷重の妨げとなる「悪いクセ」の特徴的な4つの例を挙げてみたので、自分にあてはまるところはないか、さらになぜダメなのかということも理解してみましょう。
適度な上体のブロッキングを保ちながら、骨盤(腰周り)の重さがカカトに伝わるようにバランスを取ってみてください。この時の姿勢が基本ポジションになります。前にも後ろにも、そして左右方向へも身体を動かしやすい場所が理想のポジションです。
■悪い例
やたらと前傾意識の強い人も見かけることはあります。頭を前方に出し過ぎると骨盤は後方に移動し、結果としては「つま先立ち」の様な姿勢になってしまい、さまざまな運動ができなくなってしまいますので注意しましょう。
スキーへの働きかけを確認
脚部の運動もチェックしてみましょう。ヒザを回転内側にヒネる動作と谷開き動作です。ヒザを動かしてヒネる動作は、エッジングが鋭角になり荷重点もつま先の前になりトップ側に荷重が加わります。ひと昔前は、ここに重点を置く人が多かったのですが、結果として、テールは荷重の少ない状態になり扇状にスイングする動きになります。いわゆるテールスイングと呼ばれる操作になります。
谷開きの動作はスキーをカカトで谷側方向に押し、雪を削るように動かします。骨盤からカカトを突き放すように、スキーを回転外側に動かします。スキーに荷重が加わり、骨盤とスキーの距離が離れればエッジは自然と立ちます。 いまはここがターン技術のポイントになります。この運動と基本ポジションを理解した上で練習を行なうことが大切です。
■過去の働きかけ
■現在の働きかけ
こんな滑りになっていませんか?
これまでの常識やクセなどが、実はカービングターンをマスターするにあたって足手まといになることがあります。カービングに限らず、スキー操作において代表的な悪い例を挙げてみました。「こういうクセがあるかな?」と思った人は要注意です。
■ケース1/スネの前傾運動を多用している
身体が遅れないように、滑走中はひたすら身体を前へというイメージを持っている人は少なくありません。そして今でも多くの人に見られるのが、足首を曲げ、スネを前に倒そうとする動きです。しかし、スネの前傾運動は荷重点が拇指球&つま先になってしまいます。スネを前に押し倒すような荷重運動は、スキーのセンターよりもトップ側にたわみができてしまいます。それに、スキーのトップ側に雪面抵抗もかかってくるのでスキーが詰まりやすい。スキー本来の動きが出にくくなることが考えられます。
■ケース2/身体を山側に傾けようとする
ターン中に身体を山側に傾けて滑っている人も多いです。一概に傾けることがすべて「過ち」とは言い切れないですが、傾き過ぎはアンバランスの原因にもなるので、適度な傾きを心掛けてください。
また、カカト荷重ができていて身体が傾いているのであれば問題ないのですが、つま先荷重ではバランスを崩しやすくなるので注意しましょう。雪上でなくても、その荷重の違いによるバランスを確認できるので、ぜひその場で試してみてください。身体を傾けた時、足裏のどこでバランスのコントロールがしやすいのか、しっかり体感してみましょう。
■ケース3/上体のポジションが悪い
スキーブーツの前傾角度にポジションを合わせるだけでなく、さらにスネをブーツのタングに強く押し当て、身体全体を前方に傾けている姿勢が前傾過多になります。
【前傾過多】
上体が前方に傾き過ぎると、身体を左右に動かす動作は難しくなります。他には、カカト荷重を意識しすぎて背中を真っすぐ立てた姿勢の人も見かけるようになりました。確かにカカト荷重ですが、バランスが後ろになり過ぎてしまうと、こちらも左右の動きを作ることは難しくなります。
スキー操作において前後左右のバランスはとても重要です。極端に偏った基本姿勢にならないようにしてください。
■ケース4/ヒザの動きを使い過ぎる
カービングには「エッジングが大切」という先入観が強く、ロングターンではターン後半でスネを回転内側に捻ってエッジ角をさらに強めたり、ショートターンでは谷側のヒザだけを多く倒して滑ろうとするケースが意外と多いです。
【ロングターンの場合】
スキー操作でヒザの動きを使うことは、決して間違いではありませんがやり過ぎには注意。理想的なエッジングとは「よく滑らせ、よくたわませる」エッジング操作になります。
■ロングターンをマスターする
それではカービング・ロングターンのトレーニングからスタート。カービング・ロングターンの基本の確認と練習バリエーションを3つ紹介します。この練習はすべて低速で行なうのがポイント。簡単そうに見えるが大事な要素がたくさん。スピードに頼った操作でなく、カービングに必要なポジションと運動の感覚をしっかり覚えましょう。
カービング・ロングターンを習得するために重要なポイントは「スキーの動きを止めない」こと。そのためにはカカトの動きをできるだけ止めないようにすること。カカトでスキーに働きかけて自分の脚を横方向に積極的に動かしてください。
また、エッジを立てようと操作するのではなく、スキーを動かして(滑らせて)、身体からスキーが離れていくことで内傾角度の傾きが強まると、結果として鋭角なエッジ角が得られるという仕組みを覚えていきましょう。
■目標のロングターン
ターン前半は上体の先行動作を使い、テールの動きが止まらないように低い姿勢で横のスペースをフル活用して滑ります。ターン中盤からはフォールライン方向にスキーを滑らせ、フォールラインを向いてからターン後半部分では、さらにカカトに全体重が乗るように外傾姿勢をやや強め、テールをたわませてターンを仕上げましょう。
■トレーニング1/バナナターン
外傾姿勢を意識して作り、外脚荷重を強めるトレーニング。ターン始動時に回転する内側の腕を高く上げることで、外傾姿勢が自然に身につきます。回転する内側の手を挙げてからターンに入るというイメージで練習してみてください。
身体が「バナナ」のような曲線になるので「バナナターン」。ただし、腕を上げただけでは「バナナ」にならないので、身体全体が谷側にやや傾いた曲線になるようなイメージを持ってください。谷側のスキーに体重をしっかり乗せる荷重感覚を身につけましょう。
■トレーニング2/谷開きターン
滑走中、谷側にある脚を谷側へ踏み下ろし、続いて山側の脚を踏み下ろした谷側の脚に添えてターンに入ります。普段は身体を傾けたり、骨盤を回転内側に移動させて滑っているのであまり意識しない、意識できない「体軸移動」の感覚や仕組みをつかみます。
一歩階段を下りてターンをするというようなイメージ。そしてここでも、カカト荷重を忘れずに。足裏の意識が前寄りになるとスキーのトップ側のエッジが引っ掛かりやすくなるので注意しましょう。
■トレーニング3/内足リフトターン
山側にあるスキーのトップを極端に上げて、谷側のスキーのテールに身体全体の重みが掛かるようにして滑ってみましょう。重心がかなり後ろになるので、バランスを両腕で保ちます。実はカカト荷重を意識するだけではなく、この両腕の構え、上半身のブロックもこの練習のポイントになってきます。
前傾オーバーになりやすい人や、ヒザの動きを使い過ぎるスキーヤーにも効果が期待できます。思っている以上に極端に動いてみて、上半身と下半身のバランス感覚をしっかりつかんでください。
まとめ『スキーの動きに流れを作るポジションと運動を!』
1.ターン中は常にカカト荷重を意識
2.上半身のブロッキングと先行動作を活発に使う
3.テールの動きを止めないようにする
最初はどうしてもエッジを必要以上に立てたくなるかもしれません。しかし、ヒザをヒネる動きからカカトを動かす動きになってくると、スキーの動きはかなり変わります。必要以上にエッジを立てたり、急激にエッジングすることは逆にブレーキング要素が強くなることを忘れてはなりません。滑走中は姿勢が高くならないように低めのポジションを意識し、カカトで雪面に線(トレースライン)を描くようなイメージで滑走してみてください。
■ショートターンをマスターする
最後はカービング・ショートターンだ。ロングターン編と同じく、低速でポイントをしっかりつかむことができるバリエーション・トレーニングを紹介。ついついエッジングを意識してしまいがちなショートターンですが、スキーをスムーズに動かすには、やはり「カカト荷重」が鍵を握っています。しっかりとカカトを動かしましょう。
カービングターンは、結果的にエッジの角度もきちんと立たなければならないのですが、ショートターンはロングターンよりも身体とスキーの距離は離れていません。素早い動きに対応するために、上体を安定させながらも身体の横へスキーを動かしていく動きが必要です。その動きにカカトを意識することがポイント。そうすればスキーのたわみも引き出しやすくカービング操作につながります!
■トレーニング1/ウイリーターン
滑走中に身体を前後に揺さぶりながら、かかとバランスを体感してみましょう。スキーのトップが雪面から完全に浮くように、カカトから後方への荷重を強めてください。この時にテールに掛かるプレッシャーを体感すると同時に、バランス確保をどうすればいいかをつかむ練習です。
バランス保持のために上半身のブロックをすることが必要ですが、その動きをフォローするために、両手に持ったストックのリングを前方に投げ出すようにしてください。
■トレーニング2/ストックつまみターン
ストックのグリップを指で摘まむように持って、カカト荷重を意識しながら滑ってみましょう。滑走中はストックのシャフトができるだけ揺れないようにすることがポイントです。滑る速度は低速。ストックが揺れるのは上体が安定していない証拠です。単純ですが、前後左右のバランス感覚を想像以上に安定させることができます。
【ストックつまみターンの滑り方】
隠れたバランス感覚を引き出すトレーニング。通常の滑走では両手を頻繁に動かして滑りますが、上半身と手の動きを固定させて下半身の動きに集中することで、気付かなかったバランス感覚も養えるはずです。
■トレーニング3/ストック腕乗せターン
左右の傾きを矯正し、上体の安定感を高めるトレーニングです。手首の上にストックを乗せ、ストックが落下しないように滑ってください。上体が左右に傾くと、ストックは手首からするっとズレ落ちるので、手首のポジションに気を配りながら滑ることが大切です。狙いは、左右バランスの安定。その部分に集中して練習しましょう。
【身体を対照的に使う意識】
上半身を安定させ、正確なカカト荷重に役立てましょう。ただしスキーのコントロール、エッジ角を変化させるためには状況に応じて上体を安定させるだけでなく、傾けたりすることも必要なので、どんな動きにも対応できるようになることも忘れないでください。
練習のまとめ『目的に合ったスタンスを使い分けよう!』
1.上体の安定感をキープ
2.カカトを積極的に動かそう
3.脚部を動かしやすいスタンスで!
写真はやや広めのオープンスタンスです。スタンスをやや広くすると脚を左右に動かしやすくなり、内傾角度を深くすることができるのでターンスペースを広く使え、ハイスピードでもしっかりコントロールすることができます。
【クローズスタンス】
スタンスをやや狭くしたクローズスタンスのショートターン。コブ斜面やクイックな動きが必要な場面で有効だ。
スタンスが狭くなると左右に動かせる量は少なくなって、使えるターンスペースも小さくなりますが、コブ斜面など素早いスキー操作が必要なシチュエーションでは有効です。技術を習得し、楽しさを深めるためにも、目的に合わせてスタンスを使い分けられるようになりましょう。
取材協力:丸沼高原スキー場
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