スノーボードを完全に乗りこなしてみせる。グランドトリックとは、そんな小技の集大成。誰が見てもすごい!上手い!と言われやすいだけに、ゲレンデでの目立ち度も抜群なのだ。まずはそんなグランドトリックの基礎から学んでいこう。
写真:桑野智和 テキスト:林拓郎
取材協力:奥只見丸山スキー場

モデル&解説/青木 玲(あおき・れい)

1976年 埼玉県生まれ。デモンストレーターとして活動しながらも、その滑走技術を活かしたさまざまな滑りを披露。美しいカーヴィングからジャンプ、パイプ、そしてパウダーやグランドトリックまでジャンルを超えたアクションをこなす。またスノーボードの楽しさを伝えるDVD「JOINT」シリーズも制作。多くの滑り好きから熱い支持を得ている。

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SMITH、GALLUM WAX、横浜タイヤ、7UNION、Bane INSOLE
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ノーズプレスの基本と注意点

グラトリの極意はズバリ、「いつも乗っている板の中心から、意識的にはずれて乗ること」なのだ。テールを持ち上げてノーズだけで滑る「ノーズプレス」も、ノーズだけに体重をかけることで実現できる。グラトリの基本のファーストステップはここから始めよう。

とはいえ、身体の動きはノーズに乗るのではなく、腰の真下にノーズを引き込んでくる感覚。そのためには後ろ足で板をテール側に押し出してやるといい。ポイントは上半身。しっかり腰に乗れるように、やや立て気味にするのがコツだ。
身体の真下にノーズを引き込み、乗るのは前足の小指側。つま先ではなく、足の側面全体で板を踏み込む。
ノーズプレスは踏み方も大切。感覚的にはブーツの小指側の角で身体を支えるイメージだ。

とまったままでノーズプレス

とまったままできないことが、滑りながらできるわけがない! というわけで、ノーズプレスの基本姿勢がわかったら、まずは平らなところでとまったままトライ。ここでしっかりバランスがとれている感覚を覚えておきたい。

ポイントはきっかけ作り。軽く跳ねてから、空中で身体の下にノーズを引き込んでくる。そのままノーズに乗っていけば、スムースかつカッコよくノーズプレスの体勢に入ることができる。慣れてくれば、軽くオーリーするのもナイス。とまったままでも、動きのコツは滑りながらと同じ。メリハリがつくよう、後ろ足を伸ばして板を押し出し、ノーズを腰の真下に引きんでくることをイメージしよう。

テールプレスの基本と注意点

ノーズとは逆のテールに乗るのが「テールプレス」だ。このトリックはテールのごく狭い部分に乗って絶妙のバランスを楽しみながら、バイクのウイリーのように前を上げて滑ることができる。

テールに体重を乗せてしっかりパワーをためることで、その後にオーリーやスピンなど別のトリックにつないでいくことも可能。単体でも成立しながら、さらにレベルの高いトリックのきっかけにもなるという一粒で二度おいしいトリックなのだ。

ポイントはノーズプレス同様、テールを身体の真下に引き込んでくること。前足を伸ばして板をノーズ側に送り出すようにするのがコツだ。
テールは腰の真下。慣れてきたらここまで板を送りだすようにしたい
最初はこの程度の体重移動でじゅうぶん。板を前に送り出す感覚を覚えよう

とまったままでテールプレス

ノーズプレスと同じようにテールプレスもとまったままで体勢やどこに力を入れていくか、などを確認してみよう。まずきっかけは、軽く前足で踏み切る。実はコレ、オーリーをノーズ踏み切りに応用した「ノーリー」というテクニック。完全に中級以上のテクニックだが、テールプレスをやろうとすると、自然に前足踏み切りになるのでノーリーを身につけてしまうことになる。

これだけ見てもいかにグランドトリックが基礎技術の集大成か、が分かろうというもの。踏み切ったら前足を伸ばして身体の真下にテールを引き込んでくる。この時腰は曲げないこと。しっかり上半身を立てて、身体の重みをテールに乗せていくことが重要になる。

とまったままオーリーの練習

あらゆるフリースタイルテクニックのベースになるのが「オーリー」だ。単なる垂直跳びではなく、いったん体重を後ろ足だけにのせることでテールに荷重をかけ、板のしなりを利用して高く飛ぶ技術なのだ。何しろグランドトリックだけでなく、ストレートジャンプやパイプなど、あらゆる滑りに応用できる。それだけに確実にモノにしておきたい。

さて、オーリーは前足で引き上げることから始まると思われているが、そうではないやり方もある。テールプレスの時と同じように、身体の真下に後ろ足がくるよう少しだけ板を前に送り出して後ろ足に乗る。そこから軽く真上に跳ね上がればOK。一生懸命前足を持ち上げなくても、軽やかに跳ねることができる。

どんな板がグラトリ向き?

グランドトリック向けの板を選ぶなら、間違いなく“柔らかめ”がおすすめ。自在に板を操るグランドトリックでは、メリハリのある動きが重要。小さなきっかけでも板がしっかり動いてくれるよう、少し柔らかめのスノーボードを選びたい。慣れてくるとボードの反発を利用できるようになるので、少し反発のあるほうがおもしろい。こうしてレベルに合わせることも重要だ。
セッティングにもコツがある。バインディングのハイバックは起こし気味に。こうすると横方向に足首が自由に動くようになるので、ノーズプレスやテールプレスなど身体の下で板を送り出すときにも楽になる。角度は極端に前に向けずになるべく真横に立ちやすい角度でトライしてみよう。ノーズもテールもかたより無く自由に扱えるので、トリックの数もどんどん増えてレベルアップしやすくなる。ちなみに青木ライダーは前足6°/後ろ足-6°で滑っている。

滑りながらのノーズプレス

グランドトリックの基礎が分かったら、いよいよ滑りながらの実践編。とまって練習したことを滑りながら再現するのが目的だ。スピードと斜度を克復して、バランスを取る楽しさを味わおう!

では、平地でやったノーズプレスを滑りながらやってみよう。平地に比べると斜度があるので、そのぶん思い切ってノーズを身体の真下に引き込むことが必要になる。ポイントはノーズに乗っている時の上半身。軽く背中を曲げて前足のヒザに被るようにしながらも、頭が下がらないようにしっかり立てておくこと。

また、下半身では後ろ足をテール側に押し出すことで、ノーズがより身体の下に入り込んでくる。この体勢では自然に前足のヒザが曲がってくるので、柔らかくキープしてしっかり体重を支えよう。ただし、前足で意識するのはヒザを曲げることと同時に、足首を柔らかく曲げること。この足首の意識がよりバランスのとりやすい体勢を作ることに繋がってくる。

滑りながらのテールプレス

ノーズプレスに比べるとテールプレスは斜度の影響は受けにくい。むしろ多少斜度がある方が、テールに乗りやすくなるくらいだ。

滑りながら軽く前足に体重を乗せ、そのまま軽く跳ねながら、身体の下で板を進行方向に送り出す。すると後ろ足だけに乗れるので、テールだけで滑り続けてみよう。ポイントは平地で練習したときと同じで、上半身は立て気味に。この時両腕が一直線になるように大きく開くとバランスをとりやすくなる。

もうひとつ、体重を乗せるのは後ろ足の小指側。腰が曲がってしまうとつま先に体重が乗ってしまい、まっすぐ滑れなくなってしまう。足裏の感覚を確かめながら、エッジをかけないように荷重しよう。

スライドでのブラインド360

スライドで板を雪面につけたまま、ブラインド(※見えない側。つまり背中側。反対に見える側の胸側に回るのはオープンと呼ぶ)に360度回るトリック。グランドトリックでスピンするときの目線の移動やきっかけの作り方などを身につけるなら、ここから始めよう。

最初は軽くヒールサイドのターン。そこからトゥーエッジに乗換ながら上半身だけ振り返るようにして目線を先行させる。こうして上半身と下半身の向きをずらすことが、スピンのきっかけになる。

あとは目線を回転方向に送っていけば、下半身も自然についてくる。注意するのは重心位置。前足荷重でもなければ後ろ足荷重でもない。常に板の真ん中に乗ることを意識したい。逆エッジにならないよう、エッジの切り替えにもメリハリをつけよう。

オーリー・ブラインド180

基礎で身につけたオーリーにブラインドの180をプラス。このトリックをさりげなくこなすだけで、ゲレンデの中ではかなり目立ってくる。

きっかけになるのはトゥーサイドのターン。腰を落とした姿勢から後ろ足のつま先で踏み切ってオーリーを入れる。これで板は自動的に90度まで回ってくれる。この先は、板を身体に引き寄せれば180は完成だ。

このとき最も大切なのは目線。オーリーをしたら目線は両足の間から真下を見るように。こうすることで身体の軸をぶらすことなく、安定したスピンの体勢に持ち込める。着地も真下を見たまま。進行方向を見るのは、完全に着地し終わってからだ。

オーリー・ノーズピボット360

いよいよ本格的なグランドトリックにチャレンジだ。練習したオーリー・ブラインド180とスライドでのブラインド360を組み合わせてみよう。

まずはオーリー。ただし空中で板を抱え込むのではなく、前足を雪につけるように伸ばしていく。そのままノーズプレスの要領でノーズを身体の下に引き込みながら着地。この時、着いた前足の上に腰・上半身・頭がまっすぐ乗っていることをイメージしよう。あとはノーズプレスの姿勢を保ちながらブラインドスピンを継続。後半、進行方向が見えきたらノーズにのっている体重をノーリーで解放して、板の方向を進む方向に合わせてやる。

キャブ180

オーリー・ブラインド180などでスイッチ(※板の方向が進行方向に対して前後逆になること)になったら、こんなトリックで元に戻そう。キャブ(スイッチからのオープン)180だ。

まずはヒールサイドのターンをしながら、体勢を低く。そこからテールプレスの要領でふだんの後ろ足(写真では右足)を踏み込みながら、オーリーと同じ動きでテールに体重を乗せていく。上半身が進行方向に開いているので、自然にオープンサイドにスピンし始めるはずだ。空中では蹴った後ろ足で板を引き寄せておき、着地は両足均等に。

後ろ足で踏んで、後ろ足で離陸して、後ろ足で引きつけるという、後ろ足中心のトリックなのだ。

キャブ360・ノーズピボット

先のキャブ180にノーズピボットをトッピング。するとこんなに軽やかなキャブ360ができあがる。トリックの仕掛けはキャブ180とほぼ同じ。ヒールサイドのターンをしながらテールプレスに持ち込み、そこからオーリーの要領で板を弾いて跳ねていく。

違いはその先。板を両足で抱え込むのではなく、前足だけを伸ばしてノーズを雪につけ、ノーズピボットの状態に。ここでも着いた前足の上に腰から上半身・頭がまっすぐ乗っていることを心がけよう。ノーズピボットの状態は一瞬でOK。あとはブラインド180の時と同じように、両足の間から雪面を見て、板の動きが安定したら進行方向を見ればいい。

ジャンプ+ノーズタップ

フリーライディングの中にもさりげなくグランドトリックを取りいれよう。何でもないジャンプや気がつかないうちに通りすぎてしまうようなユルイ段差も、ほんのちょっとの意外な動きで、あっと驚くワザの見せどころに変わってしまう。シンプルなジャンプにもグランドトリックのフレイバーを入れることで、今までとは違った遊び方を演出することができる。なんと着地寸前にノーズピボットでワンアクセントだ。

ジャンプそのものはいたってスタンダード。ただ違うのは通常ならグラブを入れるタイミングで、ノーズを雪面に近づける。この時の意識は踏み下げる前足ではなく後ろ足。オーリーでしっかりテールを弾いたその反動で後ろ足を引き込みながら、胸の前にテールを出してやる感覚。言ってみれば右足でのボレーシュート。この感覚をつかむことができれば、前足は少し下に向かって伸ばすだけで、この体勢ができあがる。しかも着地に向けて、体勢は自動的に戻ってくる。

キャブ540ノーズピボット

これぐらいグルグル回れると楽しい! 慣れればいくらでも回り続けられる、まさにグランドトリックの真骨頂だ。

きっかけはスイッチから、ヒールターンでテールプレス。ここまではお馴染みの動作だが、今回は回転を続けたいのでブラインド180の時のように目線は下げたままで真下を見よう。ノーズを雪面につけたら、ノーズが身体の真下から外れないように後ろ足で板を押し出しつつ、回転の勢いをそのままキープして進行方向を見ていく。感覚としてはキャブ180の途中からブラインド180ノーズピボットに移行して、ノーズプレスで耐える、といったところ。基本のワザだけで完成する、高度な発展系トリックなのだ。

ブラインド360コンパス

ゲレンデのちょっとした段差を利用して、一気にノーズに乗り込み、ノーズを軸に回転する。それが「コンパス」というトリック。コンパスは後ろ肩(写真の右肩)がポイント。前足のトゥーエッジに乗り込みながら、後ろ肩を背中側に開いていく。この時、腰を少し持ち上げて板にかかっている荷重を抜くようにすると動きがスムースになる。

跳び上がってしまうと板が浮いてしまうのでコンパスにならない。あくまでもノーズをグッと雪面に押さえつけながら、ノーズだけに乗っているイメージで。テールが上がったら、今度は後ろ足を自分のお尻の下に伸ばしにいくようなイメージで板を返していく。するとその勢いで、スルッと360まで回ってしまうのだ。

キャブ360コンパス

コンパスは跳び上がらず、プレスしたままで板を大きく持ち上げてスピンするトリック。これをテールプレスして、キャブ360で実践したのがこのワザだ。

スイッチで滑ってきたらヒールターンをきっかけにしながらテールプレス。今回はオープンサイドで回していくので、スイッチの前肩(写真の右肩)を背中側にひいていく。低い体勢から後ろ足(写真の右足)で板を踏みながら伸び上がって荷重を抜く。この時、左足でボレーシュート! そのまま後ろを向くようにするとキャブ360になる。また、ボレーシュートの体勢から進行方向を向いたままにすると、板は180の状態でとまるのでレギュラースタンスに切り替えるトリックとしても応用できる。

取材協力:奥只見丸山スキー場

初滑りシーズンはさらさらのパウダースノー、春スキーは豊富な雪とブナの新緑の中の滑走が楽しめます。
http://snow.gnavi.co.jp/guide/htm/r0789s.htm

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