感度の高いスキーヤーであれば、スノーボードブーツなどでお馴染みのBOAフィットシステムが搭載されたスキーブーツの存在はご存知だろう。’23-24シーズンより市場に初登場し、業界をもっともザワつかせたトピックのひとつだ。そして24-25シーズン、BOAブーツはさらに広がりを見せて6ブランドが展開し、フリーライドや基礎スキー、フリースタイルスキーなど、多ジャンルのスキーヤーから注目を集めている。長きに渡りバックルが独占していたフィッティングシステムのゲームチェンジャーとなるのか? 実際の使用感やフィーリング、パフォーマンスが気になるところだろう。これを読んでBOAの真の実力を理解し、ぜひ実際に雪上で新たなスキーブーツ時代の幕開けを体感してほしい。

今話題のBOAを搭載したスキーブーツの歩み

2001年、スノーボードブーツでBOAフィットシステムが登場

BOAの生みの親であるゲイリー・ハンマースラグ氏は、元々カリフォルニア州で医療機器の会社を営んでいた。スノーボーダーである彼は、会社の売却後に移り住んだコロラド州でスノーボードブーツを履く際に「シューレースを結ぶのが面倒だ」と感じるようになり、前職の技術を使ってブーツをラクに締めることを思いつく。それこそが、ワイヤーレースを使ってダイヤルで締めるというアイディアだ。数多くの試作品とテストを重ね、ラクに絞められて正確なフィット感を得られる仕組みが完成。それがK2やVANSに採用され、2001年に初めてBOA搭載スノーボードブーツが誕生した。まさに新時代の幕開けだった。

「ラク」なだけじゃない! BOAのポテンシャルと広がり

当初は簡単に脱ぎ履きできる利便性ばかりが注目されたが、BOAの目指すところはその先にある。アスリートのパフォーマンスを支えるための研究を重ね、精密なフィットでシューズの性能を引き出し、人間の限界を押し上げることがBOAのミッション。BOAはスノーボードブーツに留まらずゴルフ、ランニング、サイクリング、登山用まで拡大し、現在は世界中で多くのアスリートの足元支えるために欠かせない存在となっていることはご存知のとおり。

スキーブーツへのBOA搭載は超難関!

2001年から歳月を重ね、BOAのブランドパートナーは300以上、そしてBOAフィットシステムは世界中の何百万ものブーツ、ヘルメット、シューズなどで使用されている。ここでふとひとつの疑問が浮かぶ。なぜBOAスノーボードブーツの登場からBOAスキーブーツの登場までに、20年以上もの時間がかかったのか? ほかの競技用に比べて実現が遅れた理由は、スキーブーツにかかる負荷が他に比べて極端に大きいためだった。長きに渡り、スキーブーツにBOAを搭載することは不可能とされてきたのだ。

自社研究施設が生み出した最新技術の結晶

シューズに求められる理想のパフォーマンスは各競技で異なる。個々に異なるニーズやテクノロジーに対してベストソリューションを出せるのは、BOAテクノロジー本社併設の自社研究施設「パフォーマンスフィットラボ」の存在があってこそ。製品開発部と直結したこのラボでは、生体力学的観点からさまざまな運動を解析し、BOAによって人間のパフォーマンスをいかに向上させることができるかを検証している。開発エンジニアたちのアイデアと、ラボでの研究が一体となり、300社以上にものぼるパートナー企業とともに「最高のギア」さらに高めるためのソリューションを提案している。そんな執念の研究開発により、長く念願だったスキーブーツの商品化は実現した。
またBOA社のテストセンターでは、叩いたり、凍らせたり、水に沈めたり、さまざまな環境を想定したテストを行う。500人ものフィールドテスターの存在も大きく、BOAを泥だらけの水たまりや腰まで埋まるパウダースノーの中に持ち出したり、また舗装路にぶつけたり、過酷なヒルクライムにも挑戦し、あらゆるテストがされたという。
そして新たに生み出されたスキー用のBOAシリーズである「H+ -SERIES」は入力トルクを最適化し、締める&緩める両方向の精密な微調節を可能にし、耐久性も最大化された。スノーボード用の2倍以上の強度を持つ新開発のステンレス製ワイヤーを贅沢に採用し、0.25ミリずつの調整が可能に。カカトを包み込むホールド感にもこだわり、アスリートがハードな状況下で酷使できる強度もお墨付きだ。万一の際もライフタイム保証制度で修理キットが無償提供されるのは、BOAの製品に対する自信の現れといえる。

BOA掲載ブーツが滑りの質を向上する

勘のいい人ならもうお気づきだろうが、満を持して登場したBOAスキーブーツは、単純にバックルに変わる着脱システムを搭載したスキーブーツではない。それは、BOAスキーブーツは従来のブーツにはない科学的に証明されたフィット感とパフォーマンス優位性、そして高山での極限の厳しさに耐える耐久性を提供するものだからだ。
パフォーマンスフィットラボではアルペンスキーの研究を重ね、その成果をFrontier in Sports and Active Livingで発表している。
この研究によると、BOAフィットシステムは足の上部にかかる最大圧力を13%軽減しながらも、精密で均一なフィットを提供し、ミリ単位で微調節が可能。足裏の最大フォースが最大6%増し、ターン始動時の力、生成率が10%向上する。

バックルで上から下に押さえ込むのではなくシェルを包み込みながら締め付けるのでフィット感が向上し、ヒール方向へのホールドも向上。足上部への圧迫は減少しつつもブーツと足の一体感が高まってパワー伝達できるため、エッジ・トゥ・エッジのコントロール性が向上するというのだ。

最高のフィット感に加え、ライディングパフォーマンスをも向上してくれることが証明されているのだから、これは見過ごすわけにはいかないだろう。

現役技術選出場選手に直撃!BOAスキーブーツの魅力

鈴木裕樹 aka ぷっちょ

長野県大町市出身。ヤナバスキー場近くに生まれ育ち、スキーは幼少期より身近な存在で、小学生に上がった頃から本格的にスキーに打ち込み、大学まで競技スキーを続ける。大学卒業を機に技術選に転向し、SAJデモンストレーターを経験。現在はサラリーマンスキーヤーとして技術選やレッスンを中心に活動中。その傍ら『大人スキーチャンネル(仮)』も運営しスキーの楽しさを伝えながら、マテリアルの紹介なども行っている。今シーズンよりK2に移籍し、BOA®ブーツの普及活動に力を入れている。

from SURF&SNOW編集部

Q: 最初BOAのスキーブーツと聞いてどんなイメージがありましたか?

from 鈴木裕樹 aka ぷっちょ

A: BOAはやっぱりスノーボードのイメージ。硬さのあるブーツにワイヤーが負けるんじゃないかな? という先入観がありました。

from SURF&SNOW編集部

では実際に履いてみた時の率直な感想は?

from 鈴木裕樹 aka ぷっちょ

A: ラッピング感というか、足が包まれる感じに驚きました。バックルは2点で上から押さえていたのに対して、BOAならボトムから包み込んでくれるので、甲高でアタリ出しをしないと足が痛かったようなひとでも、気にならなくなると思います。これまであったスキーブーツのフィッティングに関する悩みの多くが、BOAによって解消されると思いましたね。

from SURF&SNOW編集部

Q: 初めて足入れをしたイメージは上々だったんですね。

from 鈴木裕樹 aka ぷっちょ

A: 足首のホールド感もすごくよくて、バックルブーツの時はカカト浮きがあるからインソールで調整していたのも必要なくなるくらい。だから女性や足首が細い人にもおすすめです。シビアに滑る人は、足首の安定感がすごく大事なんです。こんなにもタイトに履けるのであれば、もうバックルには戻れないと直感で思いましたね。

from SURF&SNOW編集部

Q: バックルとBOAを比較して、絞めやすさや使用感はどう異なりますか?

from 鈴木裕樹 aka ぷっちょ

A: BOAは全開放の状態から自分にちょうどいい締め加減まで、108パターンもの調整幅があるんです。0.25mm幅で刻めて、締めてから戻すこともできる。バックルだとそんなに細かな調整はできない。実際に雪上ではバックルは雪が詰まったり凍ることもあるんですが、BOAはそんな心配もないし、気温に左右されることがない。さらにバックルより強度も高くて破損や故障の可能性も低いので、安心して使えると思います。

from SURF&SNOW

Q: 実際に使ってみて気づいたBOAならではのメリットがあれば教えてください

from 鈴木裕樹 aka ぷっちょ

A: バックルよりもパーツが少ない分ブーツが軽いことも嬉しいです。どんなスポーツでも、足元が軽いにこしたことはないですよね。

from SURF&SNOW編集部

Q: BOAブーツを履いて滑ってみて、滑りになにか変化はありましたか?

from 鈴木裕樹 aka ぷっちょ

A: スキーでは足裏が重要で、母指球、カカト、小指球の3点が底についていないといい動きができない。だから足首のホールドがよくカカト浮きがないBOAブーツのメリットは滑りに直結します。左右の力のかかり方がよりダイレクトになって、思った通りに俊敏に動けると感じました。滑っていて以前よりも動きが軽くなるイメージです。ブーツが丸ごと自分の体の一部になったような!

from SURF&SNOW編集部

Q: どんな人におすすめですか?

from 鈴木裕樹 aka ぷっちょ

A: スキーをやる人すべてですね。全日本で使えるギアなので検定を受けるようなコアな層にも、ライトユーザーにも。バックルブーツよりも足の合う合わないが少ないので、好きなメーカーのものが選べて選択肢も広がります。特に甲高さんにはおすすめです。
ジャンルで言うと、フリーライドでも、アルペンレースでも、デモでもメリットは感じられるはずです。とにかくわかりやすく自分で力加減をコントロールできるようになるので、コブや小回りも思い通りです。

from SURF&SNOW編集部

Q: これからBOAブーツはどうなっていくと思いますか?

from 鈴木裕樹 aka ぷっちょ

A: 調整幅がほぼ無限で、上から押さえるのではなくラッピング感があるBOAブーツは、間違いなく今後シェアが拡大していくと思います。強度に関しても心配はなく、ラクに支えて滑りも上達しやすいので、いいことだらけです! 実際にFWT優勝選手もBOAブーツを使用している実績もありますし。まずはぜひ、機会があればBOAブーツに足を通してみてほしいですね。新しいものに対する不安は誰にでもあると思いますが、足を入れてみればきっと考えが変わるはずです。

text:Makiko Kishino
photo_kensuke itahara

2024/2025 BOA搭載スキーブーツ ブランドリスト

24-25シーズン、BOA搭載のスキーブーツは主要6メーカーからリリースされている。昨シーズンはアトミック、フィッシャー、K2、サロモンの4メーカーが、そして今シーズンはノルディカ、テクニカが加わり、全6メーカーのBOA搭載ブーツがラインナップする。スキーブーツの新時代が、今まさに幕を開けたと言っていいだろう。
同じBOAスキーブーツでもメーカーによって趣向を凝らし、BOAの良さが引き立つよう設計されているので、それぞれのブーツをぜひチェックしてほしい。シェルの切り込み角度や、素材の変更など、工夫を凝らしたブーツはあらゆるスキーヤーを満足させてくれることだろう。着脱のラクさだけでなく、トップライダーたちをも魅了する包み込むようなフィット感は、スキーをより一層楽しいものにしてくれる。
メーカーとともにユーザーのベストを考えて共同開発し、製品をさらに良いものにすることを追求しているBOAは進化し続け、今後は搭載メーカーの増加や競技シーンでの選手使用、新構造の登場などが期待できる。
この冬、スキーを最大限に楽しみたいのなら、フィット感とスキーパフォーマンスをさらに高めるBOA搭載ブーツをチェックするのが一番の近道だ。

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