スポーツにはさまざまな競技があるが、真摯に打ち込むアスリートの姿はどれも胸を打たれるし、応援したい気持ちがわきあがる。しかし華々しく活躍する選手にも、そこに至るまでにたくさんの努力や苦労があっただろう。特にスポーツは海外遠征やトレーニングなど多くの費用がかかるもの。なかには、せっかく才能があるのに資金が調達できず、競技活動を続けるのが難しいアスリートだっているかもしれない。そんな状況をかんがみて、アスリートの活動をサポートするスポーツ特化型のクラウドファンディングサービス「フリサケ」がスタートした。これは、応援したいアスリートをより支援しやすくしたプラットフォームをWebサイト上に整えたもの。アスリート支援を目的としたこの「フリサケ」とはどんなプロジェクトなのか。その内容を掘り下げていこう。

アスリートの夢を手助けし、より多くの人が応援できる環境を提供

「フリサケ」は、共同通信グループのなかでサイト運営などを手掛ける共同通信デジタル(東京都)が立ち上げたプロジェクト。誕生のきっかけは、有名アスリートが大手企業のスポンサーを失っていく現状を目にしたことや、新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの大会やイベントが中止となり、自社で手掛けるスポーツニュースの制作が難しい状況になってしまったからだ。この事態に対処するため、新規事業として発案されたのがスポーツクラウドファンディングの立ち上げだ。

そもそもアスリートは、海外遠征などの費用を個人で調達する競技もあり、例えば、雪上競技で大会会場の多くがヨーロッパであるため、競技を継続するには多額の資金が必要となる。しかし不況のあおりを受けて選手のサポートから撤退する企業が増え、アスリートたちは、ほかの手段で資金集めをしなければいけない状況に迫られた。アスリートたちの新しい資金調達方法を提供すると同時に、選手の地元など、地域で応援する人たちがもっと気軽に支援できる環境も必要だと考え、この新しい事業の着手が決まった。

応援したくなるサイト作りを目指した

「フリサケ」というプロジェクトが発案されてからサイトが稼働するまでの期間はおよそ9ヵ月。その行程にかかわってきた共同通信デジタル コミュニケーション デザイン事業室の上谷玲子さんに、プラットフォームが完成するまでの経緯を伺った。上谷さんは、以前はスキー場やホテルを運営するグループ企業に勤務し、6年半の在籍期間のうち半分以上をスキー事業に携わってきた経歴の持ち主だ。

from 上谷さん

まだ前職で働いていた時期に、『ウインタースポーツアスリートを支援するクラウドファンディングを立ち上げるから、手伝って欲しい』という相談をされ、即答でOKし、共同通信デジタルに転職をしました。入社してすぐフリサケの立ち上げにかかわったのですが、サービスをスタートするまでに決めなければならないことが山積みでした。まだフリサケというサービス名も決まっていなかったし、ロゴのデザインやカラーリング、サイトの構成など、考えることは多岐に渡り、ローンチまでは胃がキリキリする日々が続きました。世の中の起業家たちの精神力は強いなと、つくづく実感しました。特にクラウドファンディングというCtoC(個人間取引)のサービス構築は社内にノウハウがなかったので、実際に画面など決める際には『どのようなことを工夫すれば、ユーザーや選手が喜んでくれる?』という点を第一に考え、試行錯誤を繰り返しました。

と上谷さん。
特にサイトのトップに出てくる目標金額の部分は、「あと○円足りない!」というマイナスイメージではなく、「こんなにも応援の声が集まって力になっている」というプラスの雰囲気になるよう考えたという。スキー事業に携わってきた上谷さんは、以前からスノースポーツのアスリートに対してサポートを行いたいという気持ちがあった。だからこそ、見せ方ひとつも細かな点までこだわり、アスリートを応援したくなるようなサイト作りを考え抜いた。

第1弾のプロジェクトではスキー選手を7名のサポーターを募った

こうして2021年に動き出した「フリサケ」のプロジェクト第1弾は、まず、セブン銀行のアクセラレーションプログラムに応募し、協業することからはじまった。

from 上谷さん

協業がスタートした後、2021-22シーズンの冬に開催された、国際大会に向けて頑張るアスリートを応援するというアイデアが持ちあがりました。そこで信濃毎日新聞社さんにお声がけをし、長野県のスキー選手7名を応援する運びとなりました。信濃毎日新聞社さんには、選手全員分の15段広告のご用意いただいたり、紙面での告知広告を出していただいたりと、多方面でご協力を受けています。また、ウインター関連企業からは紙面にロゴマークを掲載する協賛や、長野県内スキー場では、現地にポスター掲出などをしていただき、結果として362万円のファンディングを募り、選手を応援する声を形にすることができました。

このプロジェクトでは、信濃毎日新聞社、セブン銀行、選手や所属先、長野県スキー連盟と、関わる組織や人物がとにかく多く、上谷さんはそれらの意見をまとめて作業を進めていくのに大変苦労したという。根気よく作業を続け、「フリサケ」サイト内で支援するアスリート全員のプロジェクトをスタートできたとき、やっと安堵できたというが、それでも「誰にも見てもらえないんじゃないか、支援してもらえないんじゃないか」という不安が続き、参加アスリート全員がサポーターからの入金を得るまでヒヤヒヤしっぱなしだったという。

from 上谷さん

プロジェクト終了後は、アスリート7名全員分の新聞紙面に応援購入(支援金サポート)をしてくれた方の氏名(またはニックネーム)を入れ込む作業があるのですが、間違いがないか何度も何度も確認しましたよ。

と、苦労したとは言いながら、表情は達成感にあふれていた。

アスリートをサポートする方法はどんな流れだったのか

アスリートを応援する方法は、まず「フリサケ」のサイトにアクセスし、サポートしたいアスリートの情報をチェック。そこから「応援コース」を選択すれば入金手続きができる。支援を受けたアスリートは集まった資金を、道具の購入や国内・海外への遠征費料などに役立てる。サイト上には各アスリートがプロジェクトで挑戦したいことや、集まった資金の使い道などが紹介されているほか、トレーニングや海外遠征の様子などの活動レポートも発信されている。

from 上谷さん

第1弾を終えたところ、アスリートによって支援数に差があり、スキー種目で応援の熱量が異なることも見てとれました。自身のSNSや『フリサケ』内の活動レポートでまめに情報発信していたアスリートのほうが多くの支援を獲得できていたので、アスリートからの発信も支援に影響することも知れました。情報発信は強制ではありませんが、重要性をもっと彼らに伝えなければならないと強く感じます。

と、上谷さんは今後の課題を考える。
なお、これまでサポーター費用はセブン銀行のATMから入金する方法だったが、現在はクレジット決済も可能になった。また、今後は多様な競技のアスリートが増えることを予想し、サーチ機能も追加予定だという。よりよいサービスを提供し、これからもアスリートとサポーターを結びつていく「フリサケ」。今後どんな支援が展開されるのか、まずはサイトをチェックしてみよう。

次なるプロジェクトは大学の合宿所の復活

2022年5月現在、「フリサケ」が展開するプロジェクトは、日本体育大学スキー部の有志が、同部の女子合宿所を復活させるための資金集めをサポートするというもの。世田谷区にあるこの合宿所は地方から進学してきた学生たちが暮らす宿舎で、一般的なアパートよりも安価なため金銭的な負担を少なくすることができる。合宿所はその昔、学生用のアパートだったが、1972年にオーナーが建て替えて、日本体育大学レスリング部の合宿所として公式に使用できるようにしたことがはじまり。その後、スキー部の女子が利用し、2013年以降からは同部の男子がここで暮らして勉学と競技活動に励んできた。2022年4月より、再びスキー部の女子が利用することになったが、建物の改修費をスキー部側で準備することになったため、その資金の支援を「フリサケ」のクラウドファンディングで募集している。
スキー部の生徒はクロスカントリー競技者が多く、近年は女子チームも力をつけ、高校の全国大会で上位入賞の経験をもつ将来有望な生徒の進学も増えている。部員は4月~10月は世田谷区のキャンパスで過ごすが、11~3月は遠征先で暮らすため、安価に暮らせる合宿所はありがたい存在。「フリサケ」では、歴史あるこの合宿所をより暮らしやすく改修し、次世代へとつなげていくための支援活動を応援している。

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