Jess Kimura×Miyonスペシャル対談
気がつけば立っていた、その場所で。
ー ストリートで生きてきた、2人の現在地 ー[前編]

2026年2月6日〜8日、福島県にある星野リゾート ネコマ マウンテンで開催された『The Uninvited Japan Open presented by YETI』。その中心にいたのが、カナダ出身のプロスノーボーダーでThe Uninvitedのオーガナイザーでもある Jess Kimuraと、ジャッジとして参加した日本のストリートシーンを牽引するガールズライダーMiyon。女のコが圧倒的に少なかったストリートの世界で、滑り続けてきた2人。 ガールズライダーとして生きてきたリアルを、2人にゆっくり語ってもらいました。

「この人、スゴイかも」から始まった運命の出会い
Miyon:Jessの滑りを初めて見たのは、私が23歳くらいのときだったかな。 ムービーだったけど、ストリートの滑りがすごくパワフルで、「この人スゴいな」って思ったのを今でもめちゃくちゃ覚えている。 そのあとアメリカのマウントフッドで初めて会ったんだよね?
Jess:突然Miyonが声をかけてきて、「私のライディングを見て!」って携帯を差し出してきたの!
Miyon:そうそう! 今まで頑張ってきた私のフッテージ(映像)なんだけど、どう思う?って(笑)
Jess:映像を見て「ヤバいじゃん!」って素直に思ったよ! その時ちょうど、女のコのストリートムービーを作りたいと思っていたから、「ビデオパートに参加してみない?」って声をかけたの。
Miyon:あの時は本当に嬉しかった。もう「ぜひ!!」って2つ返事で答えたもん。
Jess:今振り返ると私たちは特別な出会いというか、スタートだったよね。
Miyon:確かにそう。私自身はストリートを続けるかすごく悩んでいた時期だったから、Jessと出会えたことで新しい道を示してもらえた気がする。
Photo/Dar
Jess:私も同じかもしれない。実は私も『The Uninvited』をやるにあたって、どういう形でやれば良いか決めかねていたの。もちろん何となくのイメージはあったけど、決定打になったのはMiyonの存在。Miyonの映像を見たときに 「なぜこのコはこんなに上手いのに有名じゃないの?」、「こんなにヤバい滑りをするのにプロじゃないの?」って思ったんだよね。その思いから「日の目を見ていない女のコたちを表舞台に立たせてあげたい」、「そういう場を作りたい」と思うようになり、『The Uninvited』を開催することになったから、Miyonとの出会いはスゴく大きいと思う。

互いへのリスペクト
Jess:Miyonは滑りのスタイルも強さもありながら、いつも周りのことも見ているじゃない? 例えば、ムービーを作るとき、「映像を送って」とお願いすると、必ず自分だけでなく若いライダーの映像も一緒に送ってくれる。そういう心配りが本当にスゴいと思う。

互いをリスペクトし合う2人。笑顔の中に、思わず涙する瞬間も。
Miyon:日本にもカッコ良い女のコたちがいっぱいいるから!
Jess:「このコたちも見て」って、いつも当たり前のようにやっているよね。 しかも今はライダーでありながらママでもある。本当にリスペクト!
Miyon:うれしい…!でも私からすればストリートだけでなくモービルで山に入って大きなラインを滑ったりしているJessこそ、オールラウンドに滑っていてカッコ良いと思う。ただ、それ以上に魅力的なのはJessの人柄。 メールのやり取りひとつ取っても常に気遣いがあって、自分のことだけでなく、世界中の女のコたちを引っ張ってくれている存在だなって、いつも感じているの。Jessは私にとってヒーローであり女神みたいな存在だよ。
Jess:女神!?(笑)嬉しい。ありがとう!

「女神みたい」と言ったMiyonを笑顔で見つめるJess。

怖い。でも、気がつけばそこにいた。2人がストリートを選んだ理由
Jess:Miyonはそもそもなんでストリートを始めたの?
Miyon:それがね、正直言うと自分から「やろう!」と思ったことは一度もないの。
Jess:そうなの!?
Miyon:確かに初めてストリートの映像を見たときは、「これはヤバい!」、「スノーボードの中でもトップレベルのジャンルだ!」ってスゴく衝撃を受け、カッコ良いとも思った。だけど、同時に「危なそうだから、私は絶対にやらない!」って強く心に誓ったの(笑) 私自身、もともとはパークに憧れていたし。ただ、私が入っているメンズばかりのフィルムクルー『Dirty Pimp』が、ちょうどパークからストリートにシフトしていったことから、私も自然とストリートに行ったって感じ。
Jess:自然な流れだったんだね!
Miyon:そう。自分で選んだというより、導かれていった感じかも。 でもやっぱりストリートってカッコ良いし、恐怖心はあるけど根が負けず嫌いだから「なんとかメイクしたい!」、「このスポットをやっつけたい!」って気持ちは常にあったかな。 Jessはどう?
Jess:私はかなり現実的な理由。プロを目指してウィスラーに移住したんだけど、リフト券が高すぎて買えなかったの。 5年間住んでいて、シーズン券を買えたのは1年だけ。だから街で滑るしかなかった。 でも昔からルールに縛られるスポーツがあまり好きじゃなかったから、「こうしなきゃいけない」という縛りのないストリートの世界が自分にはすごく合っていたみたい。

自由なスタイルで魅せる、Jessのストリートライディング。 Photo/Dan Tyler

「女のコなのに」と言われ続けた場所で
ストリートを主戦場にして来たガールズボーダーのリアル
Jess:ところでMiyonはママになって何年?。
Miyon:4年。女のコのママだよ。
Jess:Miyonもそうだけど、「女性として生きる」という意味で女のコは大変なことが多いよね。例えば家族を持ちたいと思ったとき、妊娠するのは女性だし、そうなると時間も体力もスゴく持っていかれる。身体への負担も大きい。 でも世間的には「妊娠したらライダーは終わり」みたいな風潮もあったりするじゃない?逆に言うと、私自身はそういう経験があるからこそ、メンタルが強くなると思うんだよね。 それに女性同士はそういう大変さをどこかで共有しているから、会った瞬間に距離が縮まる気がするの。
「一緒に滑ろうよ」とか「何かやろうよ」って、自然に言い合えるというか。 もしかしたら、その感覚は男性同士より強いのかもしれない。特にストリートは女のコがすごく少ない世界だし。
Miyon:確かに! ストリートって正直かなりハードでリスキーな世界。スポットを作るのも移動するのも大変だし、力仕事も多い。何より常に危険と隣り合わせだから、楽しいこともあるけど、大変なことのほうが多いのは事実。ただ自分自身「メンズの中に女のコがいる」という意識ではあまりやってなかったけど、女のコが少ない分、ちゃんと見てもらえたときのインパクトは大きいよね! 何よりメイクできたときや恐怖に打ち勝ったときの達成感はひとしお! 自分のことをもっと好きになれるし、そういう瞬間があったからこそストリートをやってきたんだと思う。それでもやっぱりケガは多いから、憧れだけで気軽に挑戦して欲しいとはあまり思えないな。

ストリートのリアルを静かに語るMiyon。
Jess:ストリートって本当にハードだよね。 だからこそ自然の中で滑るパウダーは最高!
Miyon:ネイチャー系は自然と一緒に遊ぶ感覚を体感できるところが良いよね!
Jess:パウダーをサーフスタイルで滑るのって本当に気持ち良い!
Miyon:うん、スゴく分かる! そういうのも含めて「カッコ良さ」って変わっていくよね。

「究極の滑り」と「かっこよさ」
Miyon:若い頃は男のコと同じことができる、むしろそれ以上できるのが「カッコ良い」と思っていたの。 でも出産やライフステージの変化があって、この先どうしようって考えるようになったちょうどその頃、所属しているフィルムクルー『Dirty Pimp』のディレクターでカメラマンのDPが、ストリートからネイチャー系の世界観にシフトし、新しい作品を作ったの。それを見たとき、自然と調和している風景にスゴく感動して、「私もこういう表現をしてみたい」と思ったんだよね。 自分の中の「カッコ良さ」が、少し変わってきたのかもしれない。 Jessにとっての「カッコ良さ」とは?
Jess:私の場合Miyonとはちょっと違って、できないと言われてきたことをできるようにすることが「カッコ良さ」に繋がると思っている。 女のコのビデオパートを作ったり、メンズと同じようにプロとして滑ったり、女のコのイベントを開催したり。 ずっと無理でしょ?と言われてきたことばかりだったけど、それをひとつずつ叶えてきたことで、自分の中の「カッコ良さ」をクリアしてきた感じかな。
Miyon:Jessはずっとそれを続けて来たよね。 女のコだからという壁をJessがいっぱい壊してきてくれた!

2025年4月におこなわれた 『The Uninvited Finals』のひとコマ。 Photo/VINCENTYANG

Jessと『The Uninvited』
Jess:初めて『The Uninvited』を開催したとき、Miyonもそうだし、ヒロミ(高橋博美)もそうだったけど、日本のガールズライダーにはヤバいコがいっぱいいるって本当に驚いたの。同時に「こんなにスゴいのに、なぜ知られていないんだろう?」という思いも強く芽生えた。 だってメンズなら、カズ(國母和宏)みたいに世界で認知されている日本人プロライダーがたくさんいるのに、女のコはほとんどいない。 でも決して才能がないわけではなく、むしろ日本のガールズライダーにはポテンシャルがある。 だからこそ「日本で開催しよう」と思ったの。
Miyon:確かに、日本のガールズライダーはレベルが高いと思うよ!
Jess:ただ、開催するのは簡単じゃない。お金もかかる。 でも『The Uninvited』をやろうと思った大きな理由のひとつが、ガールズライダーたちにお金(賞金)を渡したいという気持ちだった。 賞金を手に入れてそのお金で夢を追いかけて欲しい。 だから『The Uninvited』ではできるだけ経費を使わず、その分をライダーに還元したいと思っているの。
Miyon:それって本当に大変なことだと思う。
Jess:日本で開催するにあたっていろんな場所に声をかけたんだけど、なかなか簡単にはいかなくて……。 そんななか『ネコマ マウンテン』の人たちが私のビジョンをすごく理解してくれたの! 「彼らとなら一緒にできる」そう思えた。 実際、たくさんサポートをしてくれたおかげでイベントが開催出来たし、『ネコマ マウンテン』で出来たからこそ、ライダーたちに賞金や次のチャンスをきちんと渡せたと思うの。
選択肢はいろいろあったかもしれないけれど、私にとって一番大事なのは「誰のためのイベントか?」。 先にあるのは『イベント』ではなく、『ライダー』たち。 そのためにココでやる意味があったと思っている。

『The Uninvited Japan Open』でジャッジ中のJess。
ストリートは、ただ滑る場所というだけではなかった。
怖さもあったし、迷うこともあった。それでも気づけば、2人はそこに立ち続けていた。
ガールズライダーとして歩んできた時間の中で、「カッコ良さ」や「自由」の形も少しずつ変わっていく。
今、2人がどんな思いで雪の上に立っているのか。
その続きを、後編でお届けします。
PROFILE

Jess Kimura
カナダ出身。プロスノーボーダー。ストリートシーンを牽引してきたライダーの一人であり、女性だけのストリートイベント『The Uninvited』のオーガナイザー。映像制作やイベントを通して、ガールズライダーの可能性を世界に広げ続けている。
Sponsor:CAPiTA / UNION / Coal / The North Face / Yeti / Monster / Smith

Miyon
山口美英。福岡県出身。日本のストリートシーンを牽引。「The Uninvited」では日本出身のガールズボーダーとして初めてビデオの個人パートを担うなど国内外で活動。現在はライダーとして活動しながら一児の母としてもスノーボードと向き合い続けている。『The Uninvited Japan Open』ではイベントロゴデザインも担当した。
Sponsor:CAPiTA / UNION / DEELUXE / DIMITO / COAL / ムラサキスポーツ / JUSTICE village
Photo / Remi Fukamachi
Interview&Text / Yoco Sato
Interpreter / JT(Customproduce Inc.)
Special Thanks / Customproduce.INC、Hoshino Resorts NEKOMA Mountain、The Uninvited



